能『羽衣』についての続きです。

▼能『羽衣』は「白鳥処女説話」としても異例

前に能『羽衣』は「白鳥処女説話」の類型だ、という ことを書きました。

「白鳥処女説話」というのは…

(1)処女となって地上に降りた白鳥が、

(2)その衣を人間の男に取られてしまう

…という説話で、その白鳥は聖なる存在であることが多く、そういう意味では能『羽衣』は、確かに「白鳥処女伝説」のひとつの類型だということができます。

ただ、「白鳥処女説話」には、もうひとつ大きな特徴があります。それは…

(3)乙女と化した白鳥は男と結婚をする

…というものです。

白鳥は処女であることの象徴であり、男と結婚することによって「処女」性を捨てて「母」になるのです。

で、これは能『羽衣』以外の日本各地に残る「羽衣伝説」もみなそうで、結婚もせずに(すなわち処女性を奪わず)衣を返して別れてしまうというのは、「白鳥処女説話」としても、「羽衣伝説」としてもかなり異例なのです。 

▼処女喪失説話

これは、そのような羽衣伝説があったというよりも、能の作者がそのように変えたと見られています。

「白鳥処女説話」の特徴である乙女の処女性喪失というのは、「白鳥処女説話」に限る話ではなく、『シンデレラ』だって、『白雪姫』だって、『眠れる森の美女』だって、『ラプンツェル』だって、みんな王子様がやって来て結婚をするのですから、ある意味、これらをまとめて「処女性喪失説話」ということができます。

余談ですが、処女喪失という点から見ると『ラプンツェル』は、『シンデレラ』や『白雪姫』や『眠れる森の美女』とはちょっと違うところがあります。

『ラプンツェル』以外の物語では(諸本による異同はありますが)、結婚式や披露宴で終わることが多いのですが(すなわち処女喪失が暗示されて終わる)、『ラプンツェル』だけは王子様が塔に上った日にすでにセックスはすませているのです。

しかも「喜びと性的悦楽(joy and pleasure)」のうちにです(本当はドイツ語ですが英訳です)。

ちなみに、この表現は後代の訳本では、もっとやんわりした表現になっています。両訳を対照させたHPです。

http://www.pitt.edu/~dash/grimm012a.html

▼日本の女性は強い!

話を戻しますね。

さて、こうやっていろいろな童話のタイトルを並べてみると、「あれ?」と思うことがあります。

日本の昔話、たとえば「かぐや姫(『竹取物語』)」はどうなんだっけ?

そうなんです。かぐや姫は、天皇をはじめ多くの貴公子に求婚はされますが、最終的には誰のものにもならない。すなわち処女のまま月の世界に旅立ってしまいます。

かぐや姫も、天の羽衣の天人も男のものにはならない。

「だからナンなんだ」といわれればそれまでですが、これって面白いと思うのです。

西洋の童話の中の女性には、処女性と引き換えに男性(王子様)に助けてもらうというパターンがあるようですが、しかしそれは童話の中にとどまらず、「いつか私の王子様(Someday my prince will come)」の「シンデレラ・コンプレックス」として現実の中にもあるようです。

それに対して日本の物語はどうか…ということで日本"神話"英雄譚を見てみると…

あ、神話に「” ”」をつけたのは、厳密な意味では日本には神話というものがないからです。この話をしていくと長くなるので”神話”としてスルーさせてください。

さて、そんなわけで日本の古代の物語の例として日本”神話”を見てみようと思います。

日本”神話”で英雄といわれている人は主に次の3人です(このほかにもいますが典型的な3人を。神武天皇についてもちょっと…)。

  • スサノオ命
  • 大国主命
  • ヤマトタケル命

この3人の事跡の中で、西洋風の童話に近いのは、スサノオヤマタノオロチを退治する見返りとして、クシナダ姫をゲットするエピソードです。

しかし、これだって泣いているのは国つ神の両親だし、クシナダ姫は「私を助けて」なんて一度も言ってない。いやいや、両親だって、スサノオが「娘をくれ」といったときに、最初は「お前、だれや」なんて言ってる。

大国主命やヤマトタケル命に至っては、女性は彼らに助けられる存在ではなく、むしろ彼らを「助ける存在」としての女性として登場します。スサノオのお姉さんの天照大神なんて、日本の最高神の一柱だし、男装して戦ったりして、そりゃあ強い。

強い人に守ってもらいたい、救い出してもらいたいなんていう西洋の童話に登場する「シンデレラ・コンプレックス」丸出しの女性は、古代の日本の女性像ではないのです。

※この話、続きます

▼天籟能、いよいよ近づいて来ました。

8月7日(日)です。

お待ちしておりま〜す!今回は会場が広いので、お席もありますし、当日券もあります。詳細はこちらで〜。

http://watowa.blog.jp/archives/51460046.html