復曲能『真田』のストーリーです。

この能の舞台は石橋山(神奈川県)の戦い。平氏を倒すため、源氏が旗揚げしたての頃の話です。平家の滅亡の五年前、まだまだ平氏全盛の世です。圧倒的な力の差のある平氏を命をかけて食い止め、頼朝の危機を救った真田与一の物語です。

03<頼朝、岡崎に対手を選ぶよう命じる>
石橋山の合戦では、わずか300騎の頼朝勢に対し、平家はその十倍の3,000騎以上の軍勢。昼の戦いは、ようようのこと凌いだが、これから夜の戦いが始まる。最初に行われるのは一騎打ち。敵の先発は七十人力の俣野(またの)五郎と発表された。
源頼朝岡崎義実に、俣野の相手になる味方の先発を選べと下問するが、なかなか決めることができず、「これは戦いの手合わせ。大事な戦いなので、ぜひご下命を」と頼朝に申し上げる。
 
n02<真田与一、辞退する>
頼朝は、岡崎の子の真田与一に俣野の相手を任命するが、真田は「このような大事な戦いに不覚を取っては家の恥」と辞退し、「しかし、決して命を惜しむのではありません。その証拠に今宵の戦さでは、もっとも死の危険度の高い先駆けを勤めましょう」と申し上げる。
 
n03<岡崎、真田を咎める>
父、岡崎はそれを聞き「若いくせに君の命に背くとは何事だ。俣野といっても七十人力。お前もそれに劣ることはあるまい。いや、たとえ劣っていたとしても、敵の鎧に取り付いて敵を組み伏せ、その間に頼朝公をこの場から逃すのがお前の役目。逃すことができたならば、その死がお前の高名となるのだ」という。
 
n04<真田、副将軍を命ぜらる>
これを聞き、俣野の相手を引き受けた真田は、頼朝から装束をいただき、さらには副将軍に任命される。
 
n05<頼朝公よりの酌を受ける>
また、頼朝自らお酌をし、真田の武勲を祈る。
 
<親子の別れ>n06
これほどまでの頼朝の好意に感動する真田に、父、岡崎は「武勲を遂げて名を挙げよ」と励ますが、 これが最後の親子の別れ。涙をこらえてふたりは別れる。 

※ここまでが前半です。 
 
n07<文蔵も討ち死にの覚悟をする>
この戦いには、真田の傅(めのと)の文蔵も参戦していた。真田がまだ赤ん坊の頃から育てていた文蔵は、すでに57歳になる老武者。そんな文蔵に、真田は戦いには加わらず里に戻り、母と妻子の後事を頼むというが、文蔵はそれをよしとせず、自分も討ち死にしようと決心し、手下のものに後事を託す。
 
n10<文蔵の従者(間狂言)>
文蔵の従者を演じるのは狂言役者(能には狂言の役者も出演します。間<あい>狂言といいます)。彼は文蔵が真田を育てたさまを述べ、真田の妻への文蔵の言伝を伝えるためにこれから真田の里に参ろうという。と、そこに鬨(とき)の声が聞こえてきた。
 
n11<頼朝、夜の見回りを命じる>
時はすでに夜。雨風もしきり。頼朝は臣下を呼び、「この激しい雨風に敵の足音や馬のひづめの音も掻き消えてしまうだろう。あたりを見回せ」と命じる。
 
n12<松明で照らして見回りをする>
頼朝に命じられた臣下は、松明(たいまつ)を持ってあたりを見回す。
※舞台は明るいのですが、松明を持った人が出てきたら、「いまは夜で真っ暗」と思ってください。
 
nn01<俣野一行の登場>
そこにやって来た平家の俣野の一行。やはり松明を持っているので暗闇の中の登場です。
 
nn02nn03<切り組み>
nn04nn06
今夜の戦いは、本当は真田と俣野の一騎討ちから始まるはずだったのですが、雨風激しい夜に紛れて、飛び出してしまった武士がいる。ここから大混戦が始まってしまうのです。

ここからはしばらく切り組み(チャンバラ)を楽しんでください。 
直立のまま、そのまま後ろにドンと倒れる「仏倒れ」という倒れ方を見ることができるかも知れません(右下の写真)。
 
nn07<真田と俣野の一騎討ち>
混戦がひと段落して、いよいよ真田と俣野の一騎打ちが始まる。力自慢のふたりは太刀など捨て去ってむんずと組み合います。
 
nn08<ふたり、谷に落ちる>
崖での組み合い。「えいやと跳ぬれば、ころりと転び」、上になり、下になりつつ、遥か下の谷にふたりで落ちて行ってしまう。
 
nn09<真田、俣野を押さえるが…>
が、真田の方が力が勝っていた。俣野を取って押さえて、その首を討とうとする。が、腰の刀は血糊で鞘(さや)ごと抜けてしまい斬ることができない。俣野は、文蔵を大声で呼ぶ。
 
nn10<文蔵は耳が遠くて通りすぎてしまう>
しかし、文蔵は老武者、耳が遠い。文蔵はふたりがいるところがわからずに通り過ぎてしまいます。
 
nn11<長尾兄弟、真田を取り押さえる>
そのとき、俣野の臣下である長尾新五、新六の兄弟は、この声を聞きつけて谷に降り下り、ふたりで真田とむんずと組む。
 
nn12<真田、首を落とされてしまう>
真田は「ええ、ものものしい」と二人は投げ飛ばすが、起き上がった俣野と組み合っている隙に、長尾新六にその首を討たれてしまうのです。
 
nn13<文蔵、三人と出くわす>
老武者の文蔵が「真田はいづこに」とあちこちと馬を駈けまわしているところを俣野、長尾新五、新六の三人に見つけられる。
 
nn14<文蔵と三人の戦い>
文蔵に向かって「真田は討ったぞ」と俣野がいうと、文蔵は「おお、うれしき敵(かたき)よ」と、三人の間に討って入り、火を散らすが如くに戦うが、文蔵も頭を割られて討ち死にしてしまう。
 
nn16<七騎落ち>
頼朝は、真田と文蔵の討ち死にのさまを聞き、「与一のことは忘れぬ」と、七騎だけになった味方を率いて、ひとたびはこの場を落ち延びる(このときの話が能『七騎落』になります→当日の仕舞は『七騎落』です)。
 
nn17<真田の勲功を讃える>
その後、源氏が平氏を滅ぼすことができたのも、みな真田与一の功績と、この石橋山に真田を祀るのであった。

この『真田』は江戸時代には上演の記録がない作品です。8月7日(日)の天籟(てんらい)能@国立能楽堂では、おそらく400年ぶりの能舞台での上演です。

お見逃しなく!

『天籟能』のお知らせはこちらをどうぞ〜。
http://watowa.blog.jp/archives/51460046.html 

<おしらせ>
・復曲「真田」の謡本(詞章はもちろん、節や解説なども入っています)1000円
当日ロビーの檜書店で販売しています。