このごろブログがなかなか更新できず、すみません。

Twitterにはちょこちょこ書いているのですが、こちらに書かないのにはちょっとしたわけがあります。

恒例になっているのですが、二年に一度くらいPCが壊れます。で、この年末にも一度壊れ、新しいもの(といっても中古)に変えました。が、今年は年末年始が激動で、まだほとんど何もセッティングをしていないのです。

そんなわけで気楽なTwitterばかりに書いています。

さて、今朝のTwitterに次のように書きました。

今日、明日と島根のため、昨夜は早く寝ようと目に付いた紀行文学を持ってベッドへ。が、これが大失敗。面白すぎて全然、寝付けなかった。多分30年ぶりくらいの再読。『ボートの三人男』ジェローム・K・ジェローム(丸谷才一訳)。

・・で、その続きを。

この小説は、気鬱に取り付かれた三人の紳士と一匹の犬が、テムズ河をボートで漕ぎ出すという物語。代表的な傑作ユーモア小説(裏表紙の解説より)。

昨夜も、適当なページをめくって読み始めたのですが、どのページも面白い。

昨夜、めくってしまったページには次のようなエピソードが・・・。

食事前は喧嘩腰で、不機嫌で、言葉つきもガミガミしていた仲間が、食事後には互いにほほえみあい、互いに愛し合うようになった・・という状況で・・

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われわれの知性が消化器によって支配されていることは、実に不思議であると言わねばならない。胃袋がそう望まない限り、われわれは働くこともできなければ、考えることもできない。胃袋はわれわれに対し、こういう感情を持て、こういう情熱を持てと、命令するのである(中公文庫P.139)。

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・・などとあり、胃袋の命令が細かに描写される。

●エッグス・アンド・ベイコンを食べたあとの胃袋の命令→「働け!」

●朝食と黒ビール→「眠れ!」

●紅茶(一人前茶さじ二杯分いれて三分以上おいたもの)→「さあ、起きろ。お前の力を示せ。雄弁にして荘重、荘重にして温良なれ。自然と人生を明晰な眼で見つめよ。思考の白い翼をひろげて天たかく翔(か)け、荘厳な魂のごとくに、下方にうずまく世界を見下ろしつつ、星たちの長くつづく道を通りぬけて永遠の門へと至れ」

●温かい軽焼パン(マフィン)→「野の獣のごとく怠惰であれ。魂を失え。いかなる空想、いかなる希望、いかなる恐怖、いかなる愛、いかなる生命の光も持たぬドンヨリとした眼の獣となれ」

●ブランデーをたっぷり→「さあ来れ、阿呆よ。歯をむきだしてゲラゲラ笑いながらドタリと倒れろ。ちょうどお前の仲間が笑うときのように。他愛もないことを喋り、意味のない言葉をペラペラ口にしろ。ほんのちょっぴりのアルコールに小猫のごとくに溺れ、正気を失うところの哀れな人間はいかに仕様のない間抜けであるかを、世界に示せ」

などと、まさに裏表紙の解説に書かれるごとく「ユーモア小説」と呼ぶにふさわしい筆致なのですが、しかし訳者の丸谷才一氏によれば本書はもともとテムズ河についての歴史的および地理的な展望の書、旅行案内の書として書かれたとのことです。

だからこそ面白いのでしょう。